MS223c 神を認識する力

【神を認識する力】

・前回は、ピエールの悟りの体験を紹介しました。
・今回は、その意味していることを考えます。

・まず、第一に言えることは「神はこころのなかにいる」ということです。
・これは文字通り「戦争と平和」に描かれています。

・二番目に、「神が与えてくれる幸福は『心の自由』の幸福である」ということです。

・私たちは幸福を外面的なものに求めがちですが、「ほんとうの幸福は心の自由にある」ということです。
(これが、トルストイが「戦争と平和」で二番目に言いたかったことだと思います。)(したがって、世の中に出回っている「戦争と平和」の書評とか、映画は完全に的外れだと考えられます。)
(一番言いたかったことは神の御心です。)

・三番目に、「『心の自由』を手に入れるためには、環境の不自由という経験が必要だ」ということではないかと思います。

・長くなるといけないので、ポイントだけ言っておきますと、この思想は仏教の中心思想である四諦八正道の思想と同じです。
(要するに、「『苦』を経験して解脱(=自由)を得る」という思想です。)

・四番目に、「宇宙の建設者>カタラーエフの悟った神>フリーメ―ソンの認める神」ということです。

・つまり、神様というのは一人ひとりの認識力(=信仰心)によって違って見えるということです。
・当たり前のようでもありますが、「神様がいるのにもかかわらず世の中が苦しみでみちている理由」をよく説明していると思います。

MS223b 心のなかに神を発見する最高の幸福

・前回は、「ピエールがプラトンから『今を生きている幸福』を学んだ」というお話をしました。
・今回はその続きです。

【心のなかに神を発見する最大の幸福体験】

・ピエールは、捕虜収容所で、どんな環境下でも幸福を感じることのできる悟りの境地を学びました。

・その後、フランス軍が壊滅し、ピエールは自由の身となり、そこでほんとうの幸福な境地を得ます。

・「戦争と平和」では、その境地について次のように語られています。

もう誰もあすの自分を追い立てる者はない、だれも自分の温かい寝床を奪いはしない、午後の茶や夜食は間違いなく自分を待っているのだ、・・・
喜ばしい自由の感じ、人間固有な奪うことのできない完全な自由の感じ、モスクワ出発後はじめての休憩の時に経験した自由の意識が、健康の回復につれて彼の心にしみてきた。彼はいっさいの外部の状況に支配されないこの内面の自由が、今はさらに外面の自由を加えて、ありあまるほどのぜいたくにみちみちているのに驚いた。

以前彼がたえず苦しみ求めていたもの、すなわち人生の目的は、いま彼にとって存在しなかった。・・・
彼は目的をもつことができなかった。なぜといって、彼はいま信仰をもっていたからである。それは何らかの法則や言葉や思想に対する信仰ではなくて、常に感知しうる生きた神に対する信仰であった。以前、彼はみずから課した目的のなかに神を求めていた。この目的の探究は要するに神の探究にほかならなかった。ところが、捕らわれの身となっているうちに、とおい昔に乳母が言って聞かせた言葉ー「神様は、ほらあれです。そこにでも、どこにでもおいでになります」ということを、言葉や理屈でなく直感をもって忽然と悟ったのである。

彼は捕らわれの身となっているうちに、カタラーエフの内部にひそんでいる神の方が、フリーメーソンの認めている宇宙の建設者よりも、はるかに偉大で、無限で、とうてい捕捉しがたいものだということを知った。

・以上の言葉の説明は次回にします。

MS223a プラトンとの出会い

・今回からは、「戦争と平和」の主人公ピエールの悟りを紹介します。

③ 悟りの世界へ

【プラトンとの出会い - 今を生きている幸福】

・前回は、「ピエールが捕虜収容所で極限の苦しみにあったあとに最高の幸福を手にした」という話をしました。

・今回は、その最高の幸福がどんなものであるのかを紹介します。

・結論を言うと、ピエールの悟りは「生きていることそのものが幸福」という境地です。
どんな環境であっても、生きていることは幸福なのです。

・ピエールにそのことを教えてくれたのは、捕虜収容所で出会ったプラトンです。

・ピエールは、罪のない人々が死刑で死んでいく姿を見せられて、「世界が目の前で崩壊していく」感じを受けました。
・生きている意味が分からなくなったのです。

・そこで、プラトン・カラターエフと出会います。

・プラトンは一つひとつのことをまごころを込めて行う純粋な愛の人です。
・ピエールがはじめて捕虜収容所にはいったときに、プラトンは愛と純朴さが響く声で、次のように言ってピエールを励まします。

「苦労は一時、暮らしは一生だからなあ!」
「現に私たちもここにこうして暮らしているが、おかげで何もいやな目には会わないよ」
「結局、人間の智慧でなしに、神様のさばきで決まるものだ

・そしてプラトン自身が、「かつては何不自由のない生活をしていて、今では捕虜収容所に入っているが、それがかえってしあわせだった」という話をするのでした。

・以降は、「戦争と平和」に出てくるプラトンに対するピエールの印象です。

「プラトン・カタラーエフだけは、いつもピエールの心中にもっとも強烈な、最も貴重な追憶として、かつロシヤ的な善良円満の具象化として残っていた。」
全体にまるまるとしていた。・・・気持ちのいい微笑みも、大きな鳶色の優しい目もまるかった。」
「からだ全体もしなやかさーことに堅固な忍耐力を表していた。
彼は何でもできた。・・・パンも焼けば、煮物モスル、縫物もすれば、かんなもかける、靴も縫うというふうで、いつも何かしていた。」
「彼は、自分の犬を愛した、仲間やフランス人を愛した、自分の隣にいるピエールを愛した、けれど…いつ自分と離れても悲しみはすまいということを直感した。」
純朴と真実との永久にして不可思議な、しかも円満な具象化として、いつまでも彼の心に残った。」

・プラトンに出会ったピエールは、「今を生きている幸福」というものを学んだのです。

MS222c 極限の苦しみを幸福に変えたピエールの体験

・前回は、ピエールの「正義が実現できない苦しみ」についてのお話をしました。
・今回は、その続きです・

【極限の苦しみを幸福に変えたピエールの体験】

・ピエールが悟りを得るための最大の試練が捕虜収容所での苦しみでした。

・ここでピエールは二つの試練にあいます。

・一つは、飢えと寒さという極悪の環境です。
・もう一つは、死の恐怖です。
・ピエールは死刑の直前にまでいき「死を覚悟した」その時に助けられます。

・「戦争と平和」では、ピエールだけでなく、多くの人々の「飢えと寒さの厳しさ」、「病気の悲惨さ」、「死の恐怖」の場面がでてきます。

・フリーメーソンの秘法にしたがえば、これは神様が人類に与えられた「火と水の試練」ということになります。
(ただし、神様はこうした「厳しい環境下でなくても人間が成長できる道もひらいてくださっています。それは第4章で紹介をします。)

・実際に、このあとピエールは悟りを得て大きな幸福を手にします。

・ピエールは、幸福をえたあとに「苦しみ」をこうふりかえります。

不幸だ、苦痛だ、と皆は言いますが」とピエールは言った。「もし人がいま私にむかって、捕虜になる前までのままでいたいか、それとももう一度はじめからあんなことを残らずやりなおしたいかときいたら、私はどうかもう一度捕虜になりたい、馬の肉を食べたいと言うでしょう。私たちは踏み慣れた生活の軌道から放り出されると、もう万事休すと思ってしまいます。ところが、実際はそこに初めて新しいものがはじまるのです。命のあるあいだは幸福があります。

・ピエールの他にも、愛を悟ったアンドレイは戦争で大きな傷を負いますが、安らかな心であの世に旅立ちます。

・一方、欲望にほんろうされた人々は、死の恐怖、貧乏の恐怖、病気の恐怖で苦しみ続けることになります。

MS222b 正義が実現できない苦しみ

・前回は、ピエールの「欲望にほんろうされる苦しみ」についてのお話をしました。
・今回は、その続きです・

【正義が実現できない苦しみ】

・ピエールはせいちょうするにつれて人格を向上させていきますが、人格向上のそれぞれの段階で「正義を実現できない」苦しみを感じています。

・これは、トルストイの「人間としての成長記録」そのものだと思います。

・第一段階は、前回お話をした「フリーメーソンに出会うまでの苦しみ」です。
・つまり、「正義を実現したいのだけれと何をしてよいかわからず、結局は、欲望にほんろうされてしまう」という苦しみです。

・第二段階は、「フリーメーソンの真理に出会ってからの苦しみ」です。

・この段階では、「頭では真理をわかっているのだけれど、それを実現しようとしても現実社会ではうまくいかない」という「苦しみ」を味わいます。
・ピエールは、正義の実現のために農奴を解放しようとしたり、貧しさに苦しむ農民のために学校や病院を建てようとしました。

・しかし、地域を預かる支配人がそれを邪魔するだけでなく、農民からの支持さえも得られませんでした。
(当時のロシアの農民には教養がなく、「自立をして自由になる」という幸福の意味がわかりませんでした。)
(これは社会保障の充実を求める現代人と共通したところがあると思います。)

・第三段階は、悟りを得て心の幸福をえたあとの苦しみです。

・これはエピローグに描かれていますが、この苦しみは使命感という言葉に置き換えることができると思います。
・実際に、この「戦争と平和」を書いた後に、「トルストイはこの使命実現に向けて行動を起こした」と考えられます。

MS222a 欲望にほんろうされる苦しみ

・この節では、「戦争と平和」の主人公ピエールがどのように悟りを得ていったかの紹介をしています。

② 火と水の試練

・フリーメーソンが伝える真理によると、人間は火と水の試練(人生の苦難・困難)を経て人格を向上させることにより「古代から伝わる真理の秘法」を手に入れることができます。

・今回は、ピエールが体験した「火と水の試練」を紹介します。

【欲望にほんろうされる苦しみ】

・まず、ピエールがフリーメーソン(真理)と出会うまでの苦しみを紹介します。

・お釈迦様であろうと、イエス様であろうと、マホメッドであろうと、人間はみんな真理に出会うまでは「苦しみ」のなかにいます。

・ピエールは大きな財産を持つ伯爵ですが、どちらかというと不幸な人間として描かれています。

・ピエールには純粋なところがあるのですが、正義の実現のために何をしたらよいかわからず、結局、自堕落な生活をしている仲間たちに巻き込まれ悪事を行います。
・そして、社交界に溶け込めず、空想家と見られ白い目でみられます。

・ピエールの最大の苦痛の種は、美人だが冷酷で淫蕩な夫人のエレンの存在です。

・エレンの浮気性のせいで、上流社会からバカにされます。
・エレンが原因で決闘をして、上流社会から糾弾されます。

・ここでトルストイの言わんとしていることは「世間体を気にすることの愚かさ」「世間体を気にする必要のある家庭を持つことの愚かさ」です。
(これはエピローグとの対象で明らかになります。)

(まえがきにも書きましたが、私の印象では、エピローグは「天国の生活」を紹介しているような気がしています。)

MS221d フリーメーソンでの活動と天上界からの啓示

・この記事は、シリーズMS「奇跡物語」の記事です。

【フリーメーソンでの活動】

・フリーメーソンの組合員になった後、ピエールはフリーメーソンの目的を実現するために、農奴の解放をに向かいます。
・そして、貧しい農民のために病院や、学校を、宿泊所の建設にとりかかります。
・しかし、農地を預かる支配人たちは、面従腹背で、ピエールの試みは徒労に終わります。

(ピエール自身はそのことに気がつきません。)

・ピエールは、フリーメーソンの幹部になっていきますが、だんだん組合員の欺瞞に気がつくようになります。
・自分自身も、頭では自己浄化や自己匡正が大切なことはわかっていながら、耽溺と放縦の生活に流されるようになり、悩みのなかに入ります。

【天上界からの啓示】

・迷妄のなかにいるピエールを救ったのは、組合員Vの言葉です。
・「戦争と平和」では、次のように書かれています。

組合員Vと教訓的な長い会話を交換した。彼は余にむかって、組合員Aの説を遵奉するようにすすめた。余はまだその資格なき者成れど、多くの啓示を受けたような心持がする。アドーナイは世界を創造した人の名である。エロヒムは一切を支配する人の名である。第三の名は一切の意味を包含している名だが、口に発することができない。
フリーメーソンの神聖なる教えにおいては、すべてが唯一不可分であって、すべてが集合と生動のままで認識されるのだ。

・そして、このあとに夢で天上界から次のような啓示を受けるのです。

『いちばんむずかしいのは、人間の自由を神の掟にしたがわせることだ。』と、何かの声がこういった。・・・
いちばんむずかしいことは、心の中にすべてのものの意義を結合することだ、すべてを結合する?』とピエールは自問した。・・・
こういう思想を残らず繋ぐんだ。こいつが必要なんだ!
ピエールはこの言葉によって、まったくこの言葉のみによって、自分の言いたいと思うことが表現され、自分を苦しめている問題が全部解決されるのだと感じて、内心の歓喜を覚えながらこうくりかえした。

・悟りの世界ではこうした天上界からの啓示は終わりではなくスタートです。
・ピエールにも、このあと「火と水の試練」が待っているのです。

MS221c フリーメーソンの三つの目的

・この記事は、シリーズMS「奇跡物語」の記事です。

【フリーメーソンの三つの目的】

・バズジェーエフと出会った後にピエールはドイツの神秘思想家トマス・ケンビスの本を耽読したました。
・その様子は次のように描かれています。

この書物を読みながらも、ピエールはひとつのことを、ただ一つのことのみを頭に入れた。すなわち、自己完成の到達の可能性と、かのバズジェーエフに啓示された人間相互の同胞的、実行的愛の可能性を信ずるという、ピエールのいまだかつて味わったことのない快感を識得したのである。

(ここは訳がわかりにくいのですが、要は、「魂で愛と悟りを感じた」ということだと思います。)

・このあとピエールは、フリーメーソンの会員になり、フリーメ―ソンの三つの目的を教えられます。

・一つ目は、神秘を保存し、それを子孫に伝えることです。
(この神秘は「アダムの時から伝わっているもの」と書かれているので、エロヒムの教えと考えられます。)

・二つ目は、鍛錬をして知性を浄化させ向上させることです。
(これは、天上界からの啓示を受けられるようにする』ということだと思います。)

・三つ目は、敬虔と徳行の模範を世に示し、全人類を匡正することです。

(「この記述はおそらく真実である」と考えられます。)

MS221b フリーメーソンとの出会い

・この記事は、シリーズMS「奇跡物語」の記事です。

【フリーメーソンとの出会い】

・旅先で、ピエールはフリーメーソンの重鎮のバスジェーエフと出会います。
・神を信じていないピエールに対してバスジェーエフは次のように言います。

あなたは神をご存じない、それだからあなたは不幸なのです。あなたは神を知らぬと言われるが、神はここにおられる。神はわたくしのうちにおられる。神は私の言葉のうちにおられる。

・はじめはバスジェーエフの言葉に反発をしていたピエールの心が変わっていく様子は次のように描かれています。

ピエールは、心臓の凍るような思いをし、目を輝かせてフリーメーソン組合員の顔を見つめながら、相手をさえぎろうとも、質問をもちかけようとおもしないで、じっと聴きいるのであった。そして、この見も知らぬ他人の言うことを心底信じてしまった。彼が信じたのは、フリーメーソン組合員の言葉のはしばしにあらわれる理のつんだ論法なのか、それとも、フリーメーソン組合員の言葉をとぎらしてしまうほどの烈しい声のふるえや、言葉の抑揚や、自信にみちた真摯な調子や、終始一貫した信念のうちに老いはてたような炯炯たる年寄りらしい眼つきや、その全存在から放射する沈着と、堅固と、自己の使命の自覚に対する子供らしい信頼なのかーなにかはしらぬが、ピエールは心の底から信じたいと希望を感じ、かつ、本当に信じたのである。

(このくだりは、釈尊が悟って、はじめての弟子となる五人の従者に悟りの内容を聞かせた場面を彷彿させます。)

・そしてピエールは次のように質問をします。

「どいうわけで人間の知性は、今あなたのおっしゃる大知識に到達できないのでしょう」

・このあとのバスジェーエフとピエールの会話は次のように続きます。

フリーメーソンの男は例のつつましい父親のような微笑を浮かべた。
「最高の智慧と真理とは、われわれが自分の心にとりいれようと望んでいる、清浄な液体のようなものだ」と彼は言った。「ところで、この清浄な液体を穢れた器に入れて、その浄不浄を論ずることができようか? 人間はただ自己の内的浄化によってのみ、内容たる液体をある程度まで浄化することができるのだ。」
「そうです、そうです、それはまったくです!」とピエールはうれしそうに叫んだ。

MS221a フリーメーソンと出会うまで

2 ピエールの悟りへの道

・まえがきで、「戦争と平和」には「フリーメーソンの秘密」が隠されている』というお話をしました。

・この節では、「戦争と平和」の主人公ピエールが、フリーメーソンと出会ってから悟りに至るまでの過程を紹介します。

① ピエールとフリーメ―ソンの出会いと天上界からの啓示

【フリーメーソンに出会うまで】

・はじめに、ピエールがフリーメーソンと出会うまでの過程を紹介します。

・ピエールは、大貴族のベズーホフ伯爵と庶民の女性との間に生まれた私生児です。

・ベズーホフ伯爵に後継ぎがいないためにすごい財産を継ぐことになるのですが、貴族社会に受け入れられない独特の人生観を持ち、ほんとうの幸福を求めて人生をさまよいます。

・本論では、「『戦争と平和』で書かれいている悟りの内容は仏教の悟りの内容と同じである」という主張をしていますが、ピエールの生涯は、お釈迦様の生涯と似ているようなところもあります。

・ピエールの夫人のエレンは絶世の美人ですが、かなりの俗人です。
・ピエールとは財産目当てで結婚をし、社交界の花形となり、他の男性との浮き名を流します。

・そのうわさのために、決闘をして相手に傷をおわせたたピエールは社会から非難を浴びるようになります。

・そうした環境や妻から離れようとして家を出たとことでフリーメ―ソンの会員と出会います。