③ 「戦争と平和」は神の言葉を預かる預言書である
・プロローグでお話をしておきたいことの三つ目は、「『戦争と平和』は神の言葉を預かる預言書である」ということです。
・「戦争と平和」が預言書であることはトルストイ自身の言葉からうかがい知ることができます。
・「戦争と平和」は次の言葉で終わっています。
第一の(天文学の)場合においては、空間に実在せざる不動の意識を拒否して、おのれの感知せざる運動を承認しなければならない。第二の(歴史学の)場合においては、同様に実在せざる自由を拒否して、おのれの感知せざる被支配的状態を承認しなければならないのである。
・トルストイがこの文章で言いたかったことは、「歴史は「人間の自由意志」の積み重ねでつくられていくのではなく、神様の力でつくられている」ということです。
・前半の部分は地球の自転のことを言っています。
・つまり、「『人間の自由意志の力で歴史がつくられる』と考えるのは、『地球が動いていない』と考えるのと同様に間違った感覚である」ということです。
・またトルストイは「戦争と平和」の解説で、次のように言っています。
私の希望するところはほかでもない。わたしの表現しようと思いながら、細説することを不都合と感じたような点に、読者が注意を向けるということである。
これは小説ではない。叙事詩ではなおさらない。歴史的記録ではさらさらない。
・「戦争と平和」は、みんなが考えているような小説ではないのです。
偉人英雄の行動が私の興味を感じさせるのは、歴史を支配している(とわたしは確信する)予定の法則と、もっとも非自由な行為を行っている人間が自分自身の自由を証明するためにいくたの回顧的推理を想像の中でつくり上げさせる心理的法則、この二つの法則の挿絵の意味にすぎないのである。
・この文章を意訳すると次のようになります。
私がほんとうに書きたかったのは、私が確信している歴史を支配している神が創った法則と不自由な人間の姿である。
偉人英雄の話というのは、「自分たちが自由である」と思いたがる人間が想像のなかでつくりあげた妄想にすぎないのである。
・要するに、「戦争と平和」は「神の力」について書いた預言書なのです。
(人間の自由意志のなかで、いちばん自由が少ないのが「偉人英雄だ」ということも言っています。)