・今回からは、「戦争と平和」の主人公ピエールの悟りを紹介します。
③ 悟りの世界へ
【プラトンとの出会い - 今を生きている幸福】
・前回は、「ピエールが捕虜収容所で極限の苦しみにあったあとに最高の幸福を手にした」という話をしました。
・今回は、その最高の幸福がどんなものであるのかを紹介します。
・結論を言うと、ピエールの悟りは「生きていることそのものが幸福」という境地です。
・どんな環境であっても、生きていることは幸福なのです。
・ピエールにそのことを教えてくれたのは、捕虜収容所で出会ったプラトンです。
・ピエールは、罪のない人々が死刑で死んでいく姿を見せられて、「世界が目の前で崩壊していく」感じを受けました。
・生きている意味が分からなくなったのです。
・そこで、プラトン・カラターエフと出会います。
・プラトンは一つひとつのことをまごころを込めて行う純粋な愛の人です。
・ピエールがはじめて捕虜収容所にはいったときに、プラトンは愛と純朴さが響く声で、次のように言ってピエールを励まします。
「苦労は一時、暮らしは一生だからなあ!」
「現に私たちもここにこうして暮らしているが、おかげで何もいやな目には会わないよ」
「結局、人間の智慧でなしに、神様のさばきで決まるものだ」
・そしてプラトン自身が、「かつては何不自由のない生活をしていて、今では捕虜収容所に入っているが、それがかえってしあわせだった」という話をするのでした。
・以降は、「戦争と平和」に出てくるプラトンに対するピエールの印象です。
「プラトン・カタラーエフだけは、いつもピエールの心中にもっとも強烈な、最も貴重な追憶として、かつロシヤ的な善良円満の具象化として残っていた。」
「全体にまるまるとしていた。・・・気持ちのいい微笑みも、大きな鳶色の優しい目もまるかった。」
「からだ全体もしなやかさーことに堅固な忍耐力を表していた。」
「彼は何でもできた。・・・パンも焼けば、煮物モスル、縫物もすれば、かんなもかける、靴も縫うというふうで、いつも何かしていた。」
「彼は、自分の犬を愛した、仲間やフランス人を愛した、自分の隣にいるピエールを愛した、けれど…いつ自分と離れても悲しみはすまいということを直感した。」
「純朴と真実との永久にして不可思議な、しかも円満な具象化として、いつまでも彼の心に残った。」
・プラトンに出会ったピエールは、「今を生きている幸福」というものを学んだのです。