・前回は、ピエールの「欲望にほんろうされる苦しみ」についてのお話をしました。
・今回は、その続きです・
【正義が実現できない苦しみ】
・ピエールはせいちょうするにつれて人格を向上させていきますが、人格向上のそれぞれの段階で「正義を実現できない」苦しみを感じています。
・これは、トルストイの「人間としての成長記録」そのものだと思います。
・第一段階は、前回お話をした「フリーメーソンに出会うまでの苦しみ」です。
・つまり、「正義を実現したいのだけれと何をしてよいかわからず、結局は、欲望にほんろうされてしまう」という苦しみです。
・第二段階は、「フリーメーソンの真理に出会ってからの苦しみ」です。
・この段階では、「頭では真理をわかっているのだけれど、それを実現しようとしても現実社会ではうまくいかない」という「苦しみ」を味わいます。
・ピエールは、正義の実現のために農奴を解放しようとしたり、貧しさに苦しむ農民のために学校や病院を建てようとしました。
・しかし、地域を預かる支配人がそれを邪魔するだけでなく、農民からの支持さえも得られませんでした。
(当時のロシアの農民には教養がなく、「自立をして自由になる」という幸福の意味がわかりませんでした。)
(これは社会保障の充実を求める現代人と共通したところがあると思います。)
・第三段階は、悟りを得て心の幸福をえたあとの苦しみです。
・これはエピローグに描かれていますが、この苦しみは使命感という言葉に置き換えることができると思います。
・実際に、この「戦争と平和」を書いた後に、「トルストイはこの使命実現に向けて行動を起こした」と考えられます。